遺産分割Q&A

どのような人が相続人となるのですか?

相続人には、配偶者相続人と血族相続人があります。

配偶者相続人は常に相続人となります。

血族相続人には順位があり、先の順位の者がいない場合に、後の順位の者が相続人となります。

第1順位・・・子

第2順位・・・直系尊属(親など)

第3順位・・・兄弟姉妹

養子は相続人となりますか?

養子も実子と同じく相続人となることができます。

配偶者の連れ子は相続人となりますか?

配偶者の連れ子は相続人となりません。

たとえば、夫Xが亡くなった場合、妻Yの連れ子Zは相続人となりません。

XとZの間には法律上の親子関係がないからです。

ただし、XとZが養子縁組をしていれば、ZはXの法律上の子として扱われるため、相続人となることができます。

本来相続人となるべき者が相続人としての資格を失うことはありますか?

本来相続人となるべき者が相続人としての資格を失う場合として、「相続欠格」と「廃除」があります。

相続欠格とは何ですか?

相続欠格とは、民法の定める欠格事由に該当する場合に、相続人としての資格を剥奪する制度です。

この制度は、相続秩序を乱した者に制裁を与えるためのものです。

民法の定める5つの欠格事由は次のとおりです。

①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

廃除とは何ですか?

廃除とは、本来相続人となるべき者が、被相続人に対して虐待や重大な侮辱をしたり、著しい非行をしたりした場合に、被相続人の請求に基づいて、その者の相続人としての資格を剥奪する制度です。

廃除の請求は、被相続人が生前に家庭裁判所に申し立てるか、遺言で廃除の意思表示をする方法によって行います。

家庭裁判所が廃除を認めると相続人としての資格を失うことになります。

代襲相続とは何ですか?

代襲相続とは、本来の相続人が相続開始以前に亡くなっていたなどの代襲原因が存在する場合に、その子などが代わりに相続人となることをいいます。

たとえば、親Xよりも先にその子Yが亡くなっていた場合には、孫Zが代襲相続することになります。

相続人の中に未成年者がいる場合はどうなりますか?

親権者が法定代理人として遺産分割手続を行うことになります。

ただし、①親権者も相続人となる場合、②親権者を同じくする複数の未成年者が相続人となる場合には、利益相反の問題が生じるため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。

どのような財産が遺産分割の対象となりますか?

原則として、①相続開始時に存在し、②分割時にも存在する、③未分割の、④積極財産(プラスの財産)が遺産分割の対象となります。

金銭債権は遺産分割の対象となりますか?

預貯金債権以外の金銭債権(賃料債権、貸金債権、損害賠償請求権など)は、遺産分割を行うまでもなく、相続開始と同時に相続分の割合で当然に分割されるため、遺産分割の対象とならないのが原則です。

ただし、相続人全員の合意によって遺産分割の対象とすることは可能と考えられています。

被相続人の借金は遺産分割の対象となりますか?

被相続人の借金などの相続債務は、積極財産(プラスの財産)ではないため、遺産分割の対象とはなりません。

相続債務は、相続開始と同時に法定相続分に従って当然に分割されると考えられています。

ただし、遺産分割調停で相続債務について協議することは可能とされています。

葬儀費用は遺産分割の対象となりますか?

葬儀費用は、相続開始時に存在せず、積極財産(プラスの財産)でもないため、遺産分割の対象とはなりません。

ただし、遺産分割調停で相続債務について協議することは可能とされています。

なお、葬儀費用を誰が負担すべきかについては、喪主が負担すべきとする考え方が有力です。

香典は遺産分割の対象となりますか?

香典は、祭祀主宰者や遺族への贈与であり、遺産分割の対象とはなりません。

ただし、遺産分割調停で香典について協議することは可能とされています。

仏壇やお墓などは相続財産になりますか?

系譜・祭具・墳墓といった祭祀(さいし)財産は相続財産には含まれません。

【祭祀財産】

祭祀財産は、祭祀の主宰者が引き継ぎます。

祭祀の主宰者は、①被相続人の指定、②指定がないときは慣習、③慣習が明らかでないときは家庭裁判所の審判によって定められます。

遺産の評価はいつの時点が基準となりますか?

相続開始時と遺産分割時で遺産の評価が異なる場合があります。

たとえば、相続開始時には1000万円の評価であった不動産が、遺産分割時には1500万円の評価に値上がりしているといったケースです。

原則として、遺産の評価の基準時は、遺産分割時と考えられています。

上記の例では、不動産の評価は1500万円となります。

ただし、当事者全員の合意により、別の時点を基準とすることも可能です。

土地の評価はどのようにして行うのですか?

土地には次のような公的基準があります。

公示価格・・・国土交通省土地鑑定委員会が公示する価格で、実勢価格(時価)に近いとされています。

相続税評価額(相続税路線価)・・・相続税の課税の基準となる価格で、公示価格の80%程度の額とされています。

固定資産税評価額・・・固定資産税の課税の基準となる価格で、公示価格の70%程度の額とされています。

このような公的基準を参考に土地を評価する方法があります。

たとえば、相続税評価額を80%で割り戻したり、固定資産税評価額を70%で割り戻したりして、土地の評価をすることが考えられます。

また、不動産業者の査定書を参考にする方法もあります。

たとえば、複数の査定書を取り寄せ、その平均値をもって土地の評価とすることが考えられます。

相続人が複数いる場合の相続の割合はどのようになりますか?

民法で定められた各相続人の相続割合のことを法定相続分といいます。

法定相続分は遺産分割の出発点となる基準です。

法定相続分は次のとおりです。

配偶者と子が相続人の場合・・・配偶者2分の1、子2分の1

配偶者と直系尊属が相続人の場合・・・配偶者3分の2、直系尊属3分の1

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合・・・配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1

なお、子・直系尊属・兄弟姉妹が複数いる場合は、原則として、法定相続分を均等に分けることになります。

たとえば、配偶者と子A、子Bが相続人の場合、それぞれの法定相続分は、配偶者2分の1、子A4分の1、子B4分の1となります。

相続人の中に、被相続人から生前贈与や遺言による贈与(遺贈)を受けた人がいる場合はどうなりますか?

相続人が生前贈与や遺贈によって特別の利益を受けている場合、その分相続できる割合が減少することがあります。

これを特別受益といいます。

どのようなものが特別受益となりますか?

民法では、①遺贈、②婚姻のための生前贈与、③養子縁組のための生前贈与、④生計の資本としての生前贈与が特別受益の対象となるとされています。

遺贈は、どのような目的でなされたものであっても特別受益となります。

生前贈与は、婚姻・養子縁組のため又は生計の資本としてなされたものである必要がありますが、実際には、生計の資本としての生前贈与が問題となるケースがほとんどといわれています。

生計の資本としての贈与とは何ですか?

生計の資本としての贈与とは、贈与を受けた人の生活の基盤となるような贈与のことをいいます。

大学や専門学校の学費は特別受益となりますか?

大学や専門学校の学費は、親の子に対する扶養義務の範囲内のものとして、特別受益とならないのが原則です。

ただし、私立大学医学部の入学金など特に高額なものについては、特別受益となることがあります。

生命保険金(死亡保険金)は特別受益となりますか?

生命保険金は、特別受益とはなりません。

ただし、保険金受取人である相続人とその他の相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存在する場合には、特別受益に準じて取り扱われます。

被相続人が生前贈与等を特別受益として考慮しないよう意思表示することはできますか?

被相続人は、生前贈与等を特別受益として考慮しないよう意思表示することができます。

これを「持戻し免除」の意思表示といいます。

持戻し免除の意思表示が認められると、生前贈与等は特別受益として考慮されず、相続できる割合が減少することがなくなります。

持戻し免除の意思表示は、遺言等によって明示的に行うこともできますし、黙示的に行うこともできます。

たとえば、病気の相続人の生活を保障するために生前贈与を行った場合などには、黙示の持戻し免除の意思表示が認められます。

相続人の中に、被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした人がいる場合はどうなりますか?

相続人が被相続人に特別の貢献をしている場合、その分相続できる割合が増加することがあります。

これを寄与分といいます。

寄与分が認められるための「特別の寄与」とは何ですか?

寄与分における「特別な寄与」とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献のことをいいます。

夫婦間の協力扶助義務や親族間の扶養義務の範囲を超える行為でなければ、「特別な寄与」とはいえません。

寄与分にはどのような類型がありますか?

寄与分の類型として、①家業従事型、②金銭等出資型、③療養看護型、④扶養型、⑤財産管理型などがあります。

相続開始後の行為であっても、寄与分の対象となりますか?

寄与分の対象となる行為は、相続開始前のものである必要があります。

遺産の分割方法にはどのようなものがありますか?

遺産の分割方法として、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割があります。

当事者が合意すれば、どのような分割方法を採用してもよく、複数の方法を組み合わせることも可能です。

当事者で分割方法が合意できず、遺産分割の審判がなされる場合、①現物分割→②代償分割→③換価分割→④共有分割の順で分割方法が検討されます。

現物分割とは何ですか?

現物分割とは、遺産を現物のまま配分する方法です。

たとえば、相続人Aに土地を、相続人Bに現金を取得させる場合です。

代償分割とは何ですか?

代償分割とは、遺産を現物で取得する代わりに、他の相続人に対し代償金を支払う方法です。

たとえば、相続人Aが2000万円の土地を取得する代わりに、相続人Bに対し1000万円の代償金を支払う場合です。

換価分割とは何ですか?

換価分割とは、遺産を売却して、その売却代金を配分する方法です。

たとえば、遺産である土地の売却代金2000万円を、相続人AとBで分ける場合です。

共有分割とは何ですか?

共有分割とは、遺産を共有とする方法です。

たとえば、遺産である土地を相続人AとBで2分の1ずつの共有とする場合です。

共有分割は、遺産に関する紛争の解決とならないことが多いため、できる限り避けた方がよいとされています。

遺言がある場合、遺産分割はどうなりますか?

有効な遺言がある場合、遺言の内容に従って遺産を取得させることになるため、遺産分割をする必要はありません。

ただし、遺言の対象となっていない遺産がある場合は、その遺産について遺産分割が必要となります。

また、相続人全員の同意があれば、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことも可能と考えられています。

遺産分割調停はどこの家庭裁判所に申し立てるのですか?

遺産分割調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てます。

相手方が複数いる場合は、いずれかの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることができます。

なお、各地域を管轄する家庭裁判所は、裁判所のホームページで確認することができます。

遺産分割調停はどのように進行するのですか?

遺産分割調停は、①相続人の範囲の確定、②遺産の範囲の確定、③遺産の評価の確定、④特別受益・寄与分の確定、⑤遺産の分割方法の確定の順で進められるのが一般的です。

このように、段階的に手続を進めるため、「段階的進行モデル」と呼ばれています。

遺産分割調停が不成立となった場合、遺産分割の手続はどのようになりますか?

遺産分割調停が不成立となった場合、自動的に遺産分割審判に移行します。

これを「審判移行」といいます。

審判では、裁判官が様々な事情を考慮して、遺産分割について判断することになります。